２人の………
「………おかしい」
そう。今日は癒李の様子がおかしいのだ
『あの日』ってやつか？
―――んな訳ない
第一、癒李の場合生理の日はもっと解りやすい
癒李の場合はそんなに症状は辛くないらしい
………昔、何となく気になって聞いた時に話してくれた
「って。何、考えてるんだ俺は………」
とにかく、癒李がおかしいんだ
癒李自身に何かあった訳じゃなくて
行動の様子がおかしいんだ
―――そう、例えば
「癒李、少しここの所教えてくれないか？」
「………………」
授業の間の休み時間
先ほどの授業で解らなかった部分を教えてもらおうと
隣に座っている癒李に声をかけるが返事がない
「癒李？」
「………………」
もう１度呼びかけてみるが
癒李は虚空を見つめたまま意識がどこかへ飛んでいっている………
「おい、癒李！」
「………ひゃっ！ そ、奏ちゃんどうしたの !?」
強めに呼びかけながら、肩を軽く揺さぶると
驚いた様に返事をする、やっと意識が帰ってきた様だ
「大丈夫か………？」
どうかしたのはこちらの台詞だ
軽く肩を揺すっただけなのに異様に動揺してる………
「だ、大丈夫だよ。何かあったの？」
「大丈夫ならいいけど………えっと、ここ教えてくれるか？」
俺は教科書の授業で解らなかった部分のページを開いてその箇所を指差した
「………あれ？ 昨日こんなに進んだっけ？」
「昨日じゃない、今の授業でやった所だ………」
「へ !? 今って朝のＳＨＲ終わった所じゃなかったっけ？」
俺の言葉に目を丸くしながら腕時計に目をやる癒李
相当動揺しているのか腕時計のしている右手ではなく
先に左手を見てしまっているのを見て俺は苦笑した
朝のＳＨＲ後と間違えるって事はその時からぽーっとしてたのか………
帰りのＳＨＲ終了の鐘が鳴り
生徒達が待ち望んだ放課後を告げる
「癒李、帰ろうぜ」
「ごめんね、奏ちゃん。私、寄りたい所あるから先に帰ってて」
俺の誘いに癒李は申し訳なさそうに言った
「なら、俺も付き合うぞ」
「ううん、たいした用事じゃないからいいよ」
たいした事ないと言いつつも
俺には癒李の表情や態度が『大事な用がある』
と告げているのを感じた
「………そうか」
癒李の行動が非常に気にはなったが
無理に付いて行くのも野暮なので諦める事にした
「私もすぐに帰るから、ごめんね」
「気をつけてな」
「………ありがとう」
俺の反応から癒李も自分の嘘がばれている事に気づいた様だ
申し訳なさそうに感謝の言葉を呟いた
祐治でも誘ってみようとしたが祐治は詩恩と先に帰った様で
俺は結局１人で帰る事になった
―――ってな事があったんだ
俺は自室のベットにごろんと寝転がる
「………それだけじゃないな」
今日の癒李の行動も気になるが
俺自身何か忘れている気がする………
―――少し、整理してみよう
何かをボーっと考えていた癒李
何か大事な用で別行動をとった癒李
何か忘れている気がする俺
解らん、データが少なすぎる
もう少し他のも入れて考えてみるか………
俺は部屋を見回して今の整理に追加していく
デフラグ中の自作ＰＣ
もうすぐ午後７時を指す時計
読みかけの雑誌
癒李が印をつけた今月のカレンダー
赤丸で印をつけてある今日の日付
今日は９月１３日
『奏ちゃん』
「うわっ！」
考えが纏まろうかと思った瞬間
前触れもなく癒李からのテレパシーが入り
俺は驚いて声をあげてしまった、纏めていた考えはその時に強制停止された
―――まあ、癒李のテレパシーはいつも前触れなんてないけどな
『奏ちゃん、どうしたの？』
『ん………いや、なんでもない』
『そっか、じゃあ転送するね』
『はぁ !?』
シュッ
癒李は一方的に言い放つと俺に有無を言わさず居間へ転送した
俺が普通に下に降りれば済むかと思うんだが………
などと考えているうちに俺は居間に転送され
「おぉ………」
転送先の光景に俺は思わず驚嘆の声をあげる
癒李の今日のおかしな行動、さっき考えていた俺が忘れていた事
その２つがたった今ひとつに繋がった
「奏ちゃん、誕生日おめでとう〜」
癒李がクラッカーを鳴らしながら
とびっきりの笑顔で祝いの言葉をかけてくれる
ダイニングの食卓には癒李が腕によりをかけて作った豪華料理達が並ぶ
「………今日は誕生日だったか」
「やっぱり、奏ちゃん忘れてたんだね」
癒李は『思ったとおり』って感じで苦笑する
確かに、お約束ではあるけど自分達の誕生日を忘れていたとは………
「ごめんな。それと………誕生日おめでとう、癒李」
「ありがとう」
俺からの祝いの言葉に
癒李は照れ臭そうに応えた
「プレゼント………用意できなくて、ごめんな」
「ううん、プレゼントは………」
俺が申し訳なく言った言葉に返ってきたのは
企みのある笑みで言った言葉と唇が触れるだけのキス
その不意打ちに俺は反応できなかった………
「これで十分だよ」
頬を薄く染めながら癒李は微笑んだ
「これくらい、いつもやってるじゃねぇーか」
「いつも以上にすればいいよ………」
呆れ気味に言う俺に癒李が優しく応える
そして、一呼吸置いてから続けた
「………それに、お互いのプレゼントになるし♪」
「そうだな」
俺がそう言いながら頷いた直後
俺達はいつも以上の熱い抱擁と口付けでお互いを祝い合うのだった
(2003年9月13日)
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