観察日記
「………すぅ〜、すぅ〜」
寝るときに一緒のベッドに潜ったはずが
俺が目を覚まして居間に下りると
庭に続く窓の前の床でうつ伏せの状態で
規則正しい寝息を立てる癒李の姿があった
書き終えて眠ったのか
書いてる途中で眠ったのか定かじゃないけど
癒李の右手にはシャーペンが握られていて
その前方には大学ノートが広げられていた
ノートの表紙には『向日葵観察記録』と書かれており
中身に付いては特に言うまでもなく表紙どおりだ
春にウチの庭に癒李が気まぐれで数個植えた向日葵の１つが発芽したのが始まりだ
暇を見つけては世話をしていた
ネットで向日葵の育て方のサイトをよく見ていた
時々何かノートに書いていたのは確認していたが
向日葵の観察記録を書いていたのは知らなかった
癒李には悪いけどちょっと覗かせてもらおう
広げられたノートを手にとってソファーに腰を下ろす
観察は大体毎日行われていた様だ、１ページに３〜４日分書かれていて
その日の朝にでも測ったのだろう、地面からの長さや葉の大きさ等が書かれていた
所々ではスケッチした絵も描かれている
俺も上手くはないが癒李も余り絵は得意じゃないみたいだ
あと、その日向日葵関連であった事が
コメント風に書かれているが
その文はなんだか観察記録というより
小学生の観察日記みたいな感じで微笑ましく思わず笑ってしまう
―――最近のコメントを少し拾ってみよう
【８月○日
今日の暑さはかなり辛い、暑さに弱い奏ちゃんは茹っちゃってる
とりあえず、エアコンをつけた居間を拠点に家事の暇を見て水遣りに気をつけた
】
１週間前辺りの記録だな
この日の暑さは書かれてた通り酷かった………
俺なんかエアコンと扇風機のフル稼働させた自室でへばってたもんな
【８月×日
祐治君と詩恩ちゃんが遊びに来た
ちょっと、奏ちゃんと一緒に冗談言ったら強風で飛ばされた
花の方に被害がなくてよかった
】
これは５日前だったな、あの２人って
俺達が平気でしてる事でも真っ赤になるから
その反応を見てるのがまた面白いんだよなぁ
目論見がばれると容赦ないけどな
その日は庭から飛ばされたから
風の影響を向日葵がもろに受けてたから心配だったんだと思う
【８月△日
ふにゃにゃ化した奏ちゃんが花に手を出そうとしてたから
『メッ！』って一喝したら寂しそうな目で私の事見るから
そのまま元に戻るまで家の中で思いっきり甘えさせてあげた
】
………これは流石に記憶にない
とりあえず、一昨日の事だな
昼前辺りから２０時辺りまでの記憶がなくて
気がついたら、癒李に抱かれてソファーに座ってたからな
―――それにしても、小さくなった俺ってホント愛玩動物化してるみたいだな
なんだか自分の事なのに客観的で
悲しむべきなのか喜ぶべきなのか解らず
苦笑しながら次のページを開く
ページから言うと昨日の事だ
―――昨日って何があったっけかな？
【８月□日
朝から雨で夕方頃から風も酷くなってきた
夜には台風が直撃するらしい、流石に花は無事では済まないだろう
もう少しで咲くのに可哀想………
今晩は付きっ切りでいる事にする
】
俺はハッと眠っている癒李を見つめた
明らかに最後の一文は後から書き足したものだ
よく癒李を見ると目の下には隈が出来ていて表情も随分疲れきったようだ
きっと、夜通しバリアを張って向日葵を守っていて
それで、通り過ぎたのを確認して気が抜けたのだろう
超能力の使い過ぎからくる睡魔ではなく、起き続けてきた所為だと思う
俺はノートを閉じると脇にノートを挟んで
まだ眠る癒李をお姫様抱っこすると階段を昇る
―――これじゃあ昼過ぎまで起きなさそうだ
それまではゆっくり寝ていてもらおう
「………徹夜は報われたな」
癒李の耳元で小さく呟く
庭には彼女の守った花が
朝露と日の光を浴びてながら
元気に咲く姿があった
作成日（2004年7月31日）
戻る