登校

快晴とは言えないが晴れた空
スズメの鳴き声が響く気持ちの良い朝

「 奏 （そう） ちゃーん、朝だよぉー」

癒李 （ゆり） はベッドの中でいまだ眠る俺を起こそうと
必至に俺を揺すっているが………

「………あとちょっと寝かせてくれ」

「起きてよー、遅刻するよぉ」

しかし、俺はまったく起きる素振りを見せず寝返りを打つ
癒李は呆れながら『しょうがないなぁ』と呟くと………

「………うおっ！」

唇に感じたやわかな感触
癒李からの『お目覚めのキス』だった

「癒李、お前………」

これには俺も飛び起きる

「奏ちゃん、遅刻しちゃうよ？」

癒李はいまだ驚いた表情の俺に
頬を赤く染めて苦笑しながら応えた

「今、何時だ？」

「８時３分」

「何ぃ！　もうそんな時間か！」

癒李の言葉に驚いて俺は時計に目を向ける
時間は間違いなく午前８時３分を指していた
癒李は『早くしないと遅刻しちゃうよ』と俺に呼びかけ部屋を出て行った

「すぐ行く！」

俺は出て行った癒李に応えると瞬間早着替えとばかりに着替えを済ませると
階段を駆け降りると台所にあるパンを１つ咥えて玄関を飛び出した

「とばせば間に合うね」

自転車のハンドルに手を掛け苦笑しながら言う癒李に
俺は自転車の鍵を開錠し、咥えていたパンを食べながら頷いた

「奏ちゃん、 龍也 （たつや） さんと 昌子 （しょうこ） さんまだ帰ってこないの？」

自転車を漕ぎ出してすぐ癒李は話し掛けてきた
実は漕いでいたりはするのだが多少念動力でスピードを上げていたりする

「あぁ、次に帰ってくるのはいつになる事やら………」

癒李が言ったのは俺の両親の名前だ
俺の父親は考古学者で世界を飛び回っている
母さんもそれについて行っている。
その為、一度出かけるとなかなか帰ってこない

………まったく………あの、万年新婚夫婦が

まあ、このテの話ではよくあるネタだ笑いたきゃ笑え










「今日はぎりぎりセーフだったみたいだね」

朝の ＳＨＲショートホームルーム が終わると俺の席に癒李と苦笑している初音ちゃんが来た
っと、言っても癒李は隣の席なんだが………

俺達は他の自転車通学の生徒をゴボウ抜きしながら駐輪場に飛び込み教室へ向けて駆け出す
ウチのクラス担任は時間にうるさく本鈴が鳴り終わった時点で居なければ遅刻にされる
しかも、１年生の教室は４階、しかも俺と癒李のＦ組は一番奥の教室、条件が悪すぎる

結局、俺達は本鈴の最中に飛び込み遅刻を免れるのだった

「いつもながらシンドイよ」

「奏ちゃんも力を使えば良いんじゃないの？」

机に突っ伏しながら話す俺の様子を見ながら
癒李は不思議そうに言った

「奏君の行為を無駄にする様な事を言ったらカワイソウだよ」

「え !?」

癒李は初音ちゃんが返した言葉に
頭の上に大きなハテナマークを出しつつ驚いた

「奏君は癒李ちゃんが余計な超能力を使わないように気を使ってくれてるんだよ」

「まあな、微調整が難しいから今よりスピードが出そうだからな」

「………ありがとう、奏ちゃん」

初音ちゃんからの解説と俺の付け足しを聞いて
癒李が満面の笑みを浮かべる

「………………」
俺は癒李の笑顔の直後、更に机に突っ伏す事になる
癒李の微笑みは俺の疲れを忘れさせてくれる程嬉しい
だが、周りの男子から殺気めいた視線が俺に容赦なく刺さりとてつもなく痛い………

そんな事をしているうちに１限目のチャイムが鳴るのだった




掲載日(2002年3月21日)
最新修正日(2003年9月21日)


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