鬼も食わない
「なんでもっと早く注意しなかったの！」
「仕方ないだろつけちまったんだし」
「まあ、外れないだけだからまだましだけど………」
「なら、いいじゃねーか」
「よくないわよ！」
「「………………」」（汗）
朝も早くから怒声が響く、こんな時間から騒いだら近所に迷惑だろうな
「私、龍也さん達が喧嘩してるのはじめて見たよ」（汗）
「俺も見るのは少ないけど、結構仕事場じゃ多いらしいぞ」
ちなみに仕事場とは遺跡等の発掘現場の事だ
………発掘チームの人に聞いたがはじめると誰の手にも負えないらしい（汗）
「そうなんだ」
「ああ」
事の発端は癒李の右手につけられているブレスレット
親父達が送ってきたあの呪われてた代物だ
つけてから５日ほど経つがまだ外れなでいる
昨日帰ってきた時には気が付かなかった様だけど
今日の朝に癒李がつけているのを母さんが気が付いて親父に詰め寄ったのだ
………どうも、親父は伝えてなかったらしい
「癒李、床と壁、天井あと家具にバリアかけといてくれ」
「う、うん」
癒李は言われた通りにバリアを張った様だ
こんな事でもしないと家がもたないだろうから（汗）
ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ………………
「そんな事してるからこの間なんて呪いのビデオを見てテレビから出てきた長い黒髪の女の幽霊に襲われるのよ」
母さんは力を解放しつつその辺にあったよく殺人事件で凶器になってるガラス製の重い灰皿とか
包丁、鍋、テレビ………等などを手当たり次第に投げた
………それにしてもその幽霊って貞子じゃ（汗）
パシッ パシッ パシッ パシッ………………
「大丈夫だっての、あんなの体ごと鬼化させて脅かしたら尻尾巻いて逃げていったじゃないか」
「それでまた服ダメにしたんじゃないの！」
「細かい事気にするなっての」
親父も力を解放して飛んできた物を軽々とキャッチする
………今の俺じゃ避け切れない程なんですけど、しかも貞子が尻尾巻いて逃げ出すとは（大汗）
「結果を言ってるんじゃなくてもっと気を付けろっていってるんじゃない！」
母さんは鬼化させた腕で親父に向かって飛び掛った
相変わらず俺や耕一さんを上回る速度で親父との距離をコンマ何秒で縮める
ガキンッ
親父はその爪を同じく鬼化させた腕で受け止める
名刀の様な鋭い切れ味の爪がぶつかり合い金属音を鳴らす
「このまま一勝負と行こうか？」
「勿論、望む所よ！」
親父達は爪を押し合わせながら不敵な笑みを浮かべつつ話す
何か気温が１０度ほど下がって感じるんだけど
「外でやれーーーー！」
「「おう！」」
俺の大声で２人は声をそろえて応えると家を飛び出していった
こんな所で戦われたら、いくらバリアを張ってあっても家がもたないぞ
「出て行ったみたいだし、片付けるか」
俺は今を見渡しながら呟く
家の中を台風が通過したみたいだな………
「………やっと終わった」
「結構大変だったね」
親父達が暴れて散らかった居間を片付け終わって俺の部屋に戻ってきた
バリアを張ってもらっていたお陰で大した被害は無かった
もしこれが張ってなかったとしたら………考えたくも無い
「ねえ、奏ちゃん」
「ん？」
俺の膝の上に座っている癒李が話し掛けてきた
結局まだブレスレットは外れない為いつもよりいちゃついていたりする
………親父、本当にこんな事で外れるのか
シュッ
「これ、見ない？」
癒李は１枚のＣＤ‐Ｒを転送してきた、特に変わった所のないただの６５０Ｍのどこでも売っている物だ
「何のディスクだ？」
「ブレスレットつけた日に奏ちゃんのＰＣ借りて作ってたやつだよ」
「ああ、あれか」
「一緒に見よう」
「おう、見ようぜ」
俺は癒李からディスクを受け取ると相変わらず癒李を膝の上に乗せたままＰＣにそのディスクを入れる
軽い回転音がしはじめるとディスクが自動起動された
「ん、アルバムか？」
「うん」
画面には沢山の縮小化された写真が並んでいた、クリックすると元の大きさで見れるらしい
「この間写した写真とか今までに撮ってアルバムに閉じておいた写真を取り込んで作ってみたの」
「かなりの量があるんだな」
「このディスクは選りすぐりを集めたやつで残りは別のディスクに入れてあるよ」
「………これだけじゃないのか」
「うん、まだこんなもんじゃないよ」
「とりあえず、中身見させてもらうな」
「うん」
俺はその写真をひとつひとつ見ていく
こうしておけば普通の写真も劣化しないで残せていいかもしれない
「結構前の写真もあるんだな」
「うん、家中のアルバムから写真持ってきたから」
「よくこんな場面撮ってたな」
「お母さんいつの間にか撮ってるからね」
俺達は写真を一枚一枚懐かしく眺めていく
「ん、下の方に他のページへのリンクがあるな」
俺はページの下の気付きにくい所に小さなリンクのアイコンを見つけた
「あ、それは………」
カチッ
「………癒李」（汗）
「あ、あはは………」（汗）
俺は苦笑いを浮かべる癒李をジト目で睨みながらそのページを見る
そのページは俺と癒李のキスシーンや抱きしめ合っているシーンばかりが写っていた
いつの間に撮ったんだ
「………これはどういう事だ？」
「えーと………見たままだと思うけど」（汗）
「そりゃあ、見りゃ解るけど。いつ撮ったんだ？」
「………解んない」
「へ？」
「お母さんが隠してたアルバムに入ってたんだよ」
………今何と仰いました（汗）
「さやかさんが隠してた？」
「うん」
………もしかして俺達の行動はいつも監視されてるのか？
「しかもこのタイトル『ファーストキス』なんて何で撮れるんだよ！」
「………さあ」（汗）
俺達が２人で出かけてた時だったし、周りにいたのは追突してきたトラック運転手くらいだけど失神してたしな………
「やっぱりこれも『気にしたら負け』なんじゃない？」
「………そうかもしれないな」
世の中には知らない方が幸せな事がたくさんあるんだな、きっと
「ねえ、奏ちゃん………」
「ん、どうした？」
膝の上に座った癒李が上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる、頬を少し紅くして恥ずかしそうに口を開いた
「………キスしていい？」
「な、何だよいきなり」
俺はその発言に戸惑いながら応えた
発言に対して戸惑ったのよりも癒李に見とれていた所為の方が大きい
相変わらず俺は癒李にベタ惚れしているみたいだな
「何かキスシーンばかり見てたらしてみたくなっちゃった………」（ポッ）
「まあ、構わないけどな」
癒李とキスしたり抱きしめ合ったりしてるのはやっぱり好きだ
俺と癒李に唇が重なる、唇だけが重なるキスはそのうち舌を絡めたディープキスに変わっていった
ジャラッ
「あ、外れた」
キスを終えると癒李の手首からブレスレットが外れ床に落ちた
「やっと外れたな」
「うん………」
外れたのに癒李は浮かない顔をしている
「どうした？」
「外れて嬉しいんだけどね。何だかいつも以上に奏ちゃんと一緒にいられたから、それが終わっちゃったって思って」
「………全く、癒李は甘えん坊なんだな」
俺は癒李を後ろから抱きしめて耳元で囁いた
「流石に人前でとは行かないけど２人っきりならいつでも甘えてくれていいからな」
俺は赤面しながら呟く
「うん♪」
癒李は元気よく振り向くと俺に抱きつくと唇を合わせた
その日の夕方親父と母さんはボロボロの状態で朝の事が嘘の様にらぶらぶな雰囲気で帰ってきた
癒李の腕から外れたブレスレットも地下室にかたされた
―――それにしても、あのブレスレットが外れたのって
ブレスレットの方が『見せ付けられ過ぎてそれに堪えられなくて』って気がするのは俺だけだろうか………
（2002年12月19日）
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