発覚
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ！」
ある晴れた休日
時間は『おはようございます』と『こんにちは』のどちらを使えばいいか微妙な時間帯
俺は居間のテレビの前で松田勇作ばりに叫んでいた………
「どうしたの奏ちゃん！」
俺の叫び声に台所で作業していた癒李が随分驚いた様子で飛び込んでくる
急いでいたらしくエプロン姿で左手にはジャガイモ右手にはピーラーを握り締めている
今日は肉じゃがだって言ってたからなぁ………
「あ………それ、いつの間に！」
居間に飛び込んできた癒李は
テレビに映っている映像を見て
先程とは別な意味で驚き声を上げる
「癒李には悪いと思ったけど気になってな………」
俺は何とも複雑な顔をして語尾を濁しながら言う
癒李が話してくれるのを待ってられなかったのが申し訳なくて
『奏ちゃん、メッ！』
『………ふにゃん』
『まったく、いたずらっ子なんだから』
『にゃふ〜♪』
テレビに映っている映像
小さくなって猫耳を付けた俺が癒李に飛びついて
それで、癒李に叱られて弱々しく項垂れその場にひれ伏す
そんな俺を癒李が優しく頭を撫でてきて
気持ち良さそうしている俺が映っていた
「小型ビデオカメラを居間に仕掛けといた映像だ」
「………よくそんな物あったね」
「細かい物は気にしないでくれ」（汗）
癒李の指摘はごもっともだ
元々小型ビデオカメラは俺の物ではない
偶然、居間に設置してあるのを見つけたに過ぎないのだから
きっと親父達が仕掛けたんだろう………まったく傍迷惑だ………
「それより………癒李、これって初めてじゃないだろ？」
俺はゆっくりと癒李の方に振り向くと言った
癒李はこめかみに漫画みたいな大きな汗の球を浮かべながら頷いた
映像を見た限り飛びついた時の困った顔と手早い命令での対処
ひれ伏した俺を撫でながら『いつも、しょうがないなぁ』と言う感じの表情
そこから考えれば映像に映っている俺の現象と行動が初めてでない事は明らかだ
「………癒李」
「な、何 !? 奏ちゃん？」
俺はポツリと癒李の名を呼んだ
低く沈んだ呼び方に一瞬体をビクッっと小さく跳ねる
少し、怖かっただろうか？
「目の前の状況の詳細を教えてくれるか？」
「う、うん………」
俺のドスが効いた声に圧倒されつつ
癒李は俺の体に起きた現象と意識がなかった間の俺の事を話しはじめた
「………以上だよ」
「そ、そうか………」
癒李は俺がふにゃにゃ化する様になってから
今に至るまでの事を話してくれた
「今まで話さなくて、ごめんね………」
「いや、これじゃあとても話しにくいさ」
癒李の申し訳なさそうに言った謝罪の言葉に俺は優しく応えた
それよりも俺は癒李に色々と負担をかけてしまった事に対して
申し訳なく感じてきている
「奏ちゃん、あれは仕方がないんだから気にしないでね」
俺の気持ちを察して癒李が言葉をかけてくれる
「まったくもって俺は何をやっているんだか………」
「奏ちゃん！」
「な、何だ………」
癒李への申し訳なさと
自分の得体の知れない状態に弱音を吐く俺に
癒李は一喝する様に俺の名を呼んだ
その声に俺は狼狽える様な声で応えた
「ふにゃにゃ化して奏ちゃんの意識なくても………」
さっきの一喝した時とは違い
静かに、だけどどこか力強く感じる声で言う
「やっぱり、奏ちゃんは奏ちゃんだよ」
その一言を貯めるかのように一呼吸おいてから、癒李は言葉を発した
目じりに涙を少し貯め微笑む姿に俺は癒李を抱きしめた
癒李も俺の背中に手を回して抱きしめ返してくれた
「癒李、ありがとな………」
「ううん」
「これからも迷惑かけちまうと思うけどよろしく頼むな」
「勿論だよ、私は奏ちゃんのお嫁さんだもん。だけど………」
「………だけど？」
「ふにゃにゃ化してても奏ちゃんに命令するのはちょっと抵抗あるなぁ………」
「構わねぇよ、癒李になら」
抱き合ったままお互い耳元で囁きあう
お互いの温もりや心音を感じられてとても心地良い
「癒李に何かした訳じゃなくて良かったよ」
抱き合ったまま数分後
俺は唐突に呟いた
「何かって？」
「いや………もしかして、俺の意識が無い間に癒李の事、汚しちまってたのかと思ったから」
癒李を抱きしめたまま頭を掻きながら
ポツリ、ポツリと言葉を詰まらせながら言った
癒李が話してくれないのは
もしかしたらそんな事をしてしまったからではないかと
俺は心配だったのだ
「じゃれ付いてくる奏ちゃん、えっちだったからなぁー
毎回。私、欲求不満になってたんだよ………」
「そ、それって………」
癒李の瞳が艶っぽく変わる
その瞬間俺の背中を冷たい汗が流れた
「責任とってシテ欲しいなぁｩ」
「癒李………」
「なぁに？ 奏ちゃんｩ」
艶っぽく潤んだ瞳で囁く
この状態、非常にマズイ………
「すまん！」
俺は癒李の腕を振り解くと
力を解放し一陣の風となって窓から逃げ出すのだった………
「欲求不満に陥ってたのは事実だったのに………」（ポッ）
俺が逃げ出して開け放たれた窓から
一陣の風の流れた方を見つめつつ
癒李はポツリと呟くのだった
（2003年8月31日）
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