伸ばした訳
「………さっきから、どうしたの？」
就寝前の一時、
奏
ちゃんの部屋でまったりと過ごす
私は椅子に腰掛け壁に掛けてある
大き目な鏡に映る自分の姿を見ながら優しく髪を梳かす
ちなみにこの鏡、奏ちゃんに言って付けてもらったものだったりする
元々奏ちゃんが身支度する時に使ってもらおうと思ったんだけど
もっぱら使うのは私で奏ちゃんは全然使ってくれない
その鏡を通して背後にあるベッドに腰掛け私を見つめる奏ちゃん
―――そんなにジッと見られてたら恥ずかしいよぅ
「いや、
癒李
って髪の手入れ念入りなんだなって」
「そんなの当たり前だよ」
不思議そうに呟く奏ちゃんに
思わず苦笑しながら答える
女の子で髪のお手入れを怠る娘なんて少ないし
私なんか膝の後ろまであるのだから
お手入れを少しでも怠ると途中で切れちゃう
そういえば、伸ばし始めたのって小学生の時だったよね………
「………うふふ」
「どうしたんだよ？ いきなり笑って」
含み笑いを浮かべた私に
奏ちゃんが少し困った様な苦笑いをしながら尋ねる
「覚えてる？ 私が髪を伸ばし始めた時の事」
「あぁ〜、ガキの頃に俺が『伸ばしてる方が似合う』なんて事言った時だろ？」
「覚えてたんだぁ」
なんてことない事だけど嬉しい
胸の奥が暖かくなるみたいな気持ちになる
「俺が余計なこと言ったこと守ってずっとその髪型
癒李はどんな髪型してたって癒李なのにな………ごめん………」
奏ちゃんが頭を掻きながら、視線を落とし表情を暗くする
自分の我侭な言葉で私を縛り付けたと責任を感じているのだろう
―――気にする事でもないのにね
「私は、奏ちゃんが一番好きな私になりたいんだもん
それに、今でも私は髪が長い方がいいでしょ？」
私は一通り梳かし終えると
まだ自分の事を責める奏ちゃんに被る程度に優しく抱きしめる
視線を上げた奏ちゃんは驚いたみたいな顔してた
奏ちゃんは静かに頷いた
その気持ちに嘘はないだろう、それは私が一番知ってる
でなければ、長々と髪のお手入れをする私をそんなに優しく見つめてはくれないだろうし
抱きしめてくれる時に撫でる様に傷つけない様に割れ物を扱うように髪を撫でてくれはしないだろう
それに、この間奏ちゃんのＰＣを使った時に
偶然ＨＤＤの奥底で見つけた隠しフォルダ内の画像
奏ちゃんって、こみパとか行くだけあって写真よりイラスト派なんだね
そこに描かれてたのはみんな、髪が長い娘ばっかりで色は青系統が多かったね
何を言いたいかって言うと
俗に言う『極秘文書』って分類に入るものだね
―――あぁ、この場合ペーパーメディアじゃないから『極秘データ』になるのかな？
「癒李、それ見つけたのか………」
所々詰まらせながら奏ちゃんは
真っ青な顔で怯えた様な声をさせた
………あ、あれ？
「テレパシーの回線、俺に対して繋がり易くなってないか？」
顔色を一変して真っ赤にして奏ちゃんは言った
つまり、私の考えがそのまま奏ちゃんに
テレパシーとなって流れ込んだと………
「「………………」」
それに気づいた瞬間
顔に一気に血が上っていくのが解った
きっと、茹でダコ見たいに真っ赤な顔をしてるのだろう
私と奏ちゃんはそのまましばらく
お互い赤面しながらフリーズするのだった………
掲載日（2004年4月26日）
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