力
「ふわぁー」
令は体を起こすと大きく伸びをする
「………ここは？」
令は部屋を見回す
「そうだ、帰ってきたんだったな」
令は改めて我が家への帰還を噛締める
「………起きるか」
令は布団から出ると居間へ向かう
「おはよう」
「おはよう、昨日は良く寝れたか？」
居間には鎖拿が丁度朝食を作っている所だった
「ああ、よく寝れた」
「そっか、良かった」
「………和食か」
「まあね、俺は洋食より和食の方が好きだから」
「そうか」
「今、味噌汁出来たから持って………うわっ！」
鎖拿は味噌汁の鍋を持ったまま振り向こうとするが
足元のコードに足を引っ掛けてそのまま後ろ向きに倒れ込む
「鎖拿！」
「………あれ？」
倒れた衝撃と手に持ったままの味噌汁がいつまで経っても来ない
それもその筈、鎖拿の体は倒れる格好のまま空中で止まっていたのだ
（ヤバイ使っちまった）
令は力を使った事を悔やむが今更遅い
すぐに鎖拿を立たせると俯いてしまう
「りょ…令、今のは一体!?」
「………………お前も」
「―――え？」
「お前も俺の傍からいなくなるのか？」
令は表情を曇らせながら呟く
「何言ってやがる！ 何で俺が令の傍からいなくならなくちゃいけないんだよ！」
「俺がお前と違うからだよ」
「そんな事気にしない、それより今のは何？」
「よく聞くだろ『念動力』………超能力ってやつだよ」
「凄いじゃねーか♪ 他に何が出来るの？」
「あ、ああ。色々出来るがそれは飯の後にしようぜ」
令はいつもと違う反応に戸惑いながらも答える
「そうだね」
２人は朝食を食べ始める
鎖拿は何だかいつもより楽しそうに
令は相変わらず戸惑いながら
「「ごちそうさま」」
「じゃあ、早速教えて」
鎖拿は好奇心いっぱいに話し掛ける
「あ、ああ。とりあえず俺が出来るのは５つだ」
令は鎖拿の反応にまだ少し戸惑いながら話し出す
「先ずはさっき見せた念動力」
令は目の前の急須と湯飲みを空中で停止させる
『次に出来るのはテレパシー』
令は鎖拿にテレパシーの回線を開く
『話したい事を頭の中で思えばいい』
『こんな感じか？』
『そんな感じだ』
「次は？」
「霊観能力」
「霊観？」
「簡単に言うと相手の魂を見る能力だな」
「魂なんか見たってどうなるんだ？」
「魂を見ればその者の情報が大体解るんだよ」
「じゃあ、試しに俺の事見てくれる？」
「いいぞ」
令は少し真剣な顔つきになると鎖拿を『視る』
「何が見えた？」
「………言って良いのか？」
「いいよ」
「素っ裸で寝るのは良くないぞ………」
「………な、何見てやがる！」
鎖拿は顔を真っ赤にして怒鳴る
「見て良いって言ったの鎖拿だろ」
「言ったけど、そんな物見るなっての！」
鎖拿は令にそこら辺のものを手当たり次第に投げつける
カン カン カン
しかし、投げた物は令には当たらずに何か壁の様な物に阻まれる
「バリア？」
「その通り、結構便利なんだよ」
コンコン
「おぉ」
鎖拿はそれを叩くと驚きと関心が混ざったような声をあげる
「次は？」
「おまけだな」
「おまけ？」
ガチャ
パシッ
令は台所から包丁を一本念動力で持ってくる
サクッ
「令 !?」
令は持ってきた包丁の刃を自分の腕に軽くたてる
余り強くはなかったが令の腕からは赤い血が滴る
「令、大丈夫か!?」
「ああ、何か拭くものくれるか？」
「おう」
鎖拿はすぐに近くにあったティッシュの箱から５、６枚ティッシュを取り出して渡す
「サンキュー」
令は渡されたティッシュで腕から出ている血を拭く
拭いた後には傷もなくまるで最初から傷つけていない様だった
「あれ？ 傷が？」
「これがその力のおまけ『治癒力強化』怪我や傷がすぐに治る」
「なんか羨ましく感じるな」
「このくらいの傷なら一瞬で治るけど重症だったり体調が良くないと回復は遅くなるがな」
「そうなんだ」
「まあ、こんな所だな」
「もう１つ残ってるんじゃないのか？」
「チッ、覚えておったか。最初につい５つって言っちまったからな」
「何か言いづらい事なのか？」
「………今のお前に言うと絶対その力を『使ってくれ』っと言うだろうから」
「使いたくない力なの？」
「まあな」
「解った言わない」
「そうか、ごめんな」
令は一呼吸あけてからまた話し出す
「………それは相手の力を覚醒させる力だ」
「俺にその力使って！」
「『言わない』って言った直後にそれかよ」（汗）
令は呆れながら言う
「悪いがその頼みは聞けない」
「どうして？」
「俺みたいな目にお前を合わせたくない」
「？」
「人は、異なる者に恐怖し、恐怖の対象には正義という名の仮面をつけ
容赦なく残酷になれる………それだ人間って奴だ」
令は静かな口調で言う、その表情は暗く苦しんでいる様にも見えた
「………令」
鎖拿は静かに語る令を見ている事しか出来なかった
(2002年10月19日)
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