ザル
「もう、真っ暗だね」
辺りはもう日が落ちていて街灯の光だけ
「そうだな」
「そろそろ帰ろう」
「おう」
ブオン ブオーーン
少し遠くから沢山のバイクの音がする
それは令達がいる広場の方に向かって走ってくる
「鎖拿の所の奴か？」
「いや、今日は集会じゃない。きっと他のチームの奴等だろう」
「そうか」
キキーー
「………アルスフィルの鎖拿だな」
そんな会話をしているうちに爆音を撒き散らしていたバイク集団が令達がいる広場の前で止まった
「ん？」
令と鎖拿は振り返る、そこにはバイクに乗った輩が数十人いた
「何か用？」
鎖拿はリーダー格の男に向かって言う
「昨日はウチの奴が世話になったな」
「ん？ ああ、昨日の奴等ね、弱過ぎたから忘れてたよ」
鎖拿はポンと手を叩くと言う
「………やっちまえ！」
リーダー格の男が叫ぶと一斉に周りの男達が令達に向かって襲い掛かってくる
「正当防衛成立♪ やっぱりこういう輩は口実がつくり易くて楽だよ」
鎖拿は楽しそうに呟く
先ほどの発言と行動はこれを狙ってやったものだった
「ウオォーーー！」
「令は下がってて」
「そうか、なら任せた」
位置関係としては令と鎖拿は広場の端のガードレール際にいて、ガードレールの向こうは崖だ
そこに道路側から男達が一斉に襲い掛かってきているという状況、よく言う『袋のねずみ』という状態だ
「うーん、数で掛かって来てもこの程度か………」
鎖拿は少しつまらなそうに呟くと襲い来る男達の中に自ら飛び込んでいく
「………おそい」
鎖拿は男達の攻撃を難なく避けながら確実に１人また１人と撃沈させる
「………朝に見た通り強いな」
令は呟くとガードレールに寄りかかる
霊観能力で鎖拿の強さを知っている為何も手を出さない
「おい」
１人の男が令に向かってくる
「………何か用か？」
「殺されたくなけりゃあ、あいつを止めろ」
男はナイフを取り出しながら言う、それに続いて他の男達が令の周りを囲む
令を脅して人質に取ろうとしている様だ
「どうする？ 死にたくないだろ？」
男は令の喉下にナイフとつきつける
「………お前等、空飛びたくないか？」
「は？」
令はその男に言う、男は急に訳の解らない事を言われて少し戸惑う
「まあ良いや、決定♪」
「うおぉ！」
令は楽しそうに言うとナイフを持った男を念動力で宙に浮かせる
他の男達は呆然とその光景を見ている
「それそれ♪」
ドゴン
令はそのまま男をジグザグ飛行させると地面に叩きつける
叩きつけられた男はそのまま気絶した
「コイツ！」
呆然と見ていた男たちは我に帰ると令に向かって襲い掛かる
「鎖拿、こっちの奴ら倒しちゃって良いか？」
「令が平気なら良いよ」
「オッケー、了解も取ったし暴れるとしますか」
令も襲い掛かってくる男達の中に飛び込んでいく
「………スラム育ちをなめるな」
令は気絶した男達を尻目にポツリと呟く
「お疲れ」
鎖拿は広場の自販機で買ったコーヒーを渡しながら言う
「おう、鎖拿の方は大丈夫か？」
「ああ、あんなの一撃も食らわずに片付くよ」
ピーポー ピーポー………………
遠くから赤いランプを灯したパトカーが広場に向かって走ってくる
「ヤバッ、どっから嗅ぎ付けてきたんだ？」
鎖拿は逃げ切れないと感じ隠れる場所を探すが今いる広場にそんな場所はない
「やっぱ隠れないとヤバイよな？」
「流石に捕まるのは勘弁したいからな」
「じゃあ………………」
「これだけか？」
気絶している男達を収容している様子を見ながら私服の刑事が聞く
「はい、これだけです」
制服を着た警察官の男が答える
「他に隠れてるのはいないだろうな？」
「はい、隠れるような場所は他にないです」
「チッ、逃げられたか」
私服刑事の男は舌打ちするとパトカーに向かって歩いていく
「よし、引き上げるぞ」
「もう大丈夫だな」
「そうだね」
パトカーの音が遠ざかっていってのを確認すると令と鎖拿は崖下から現れる
「まさか崖下に隠れているとは思わないだろうな」
「令の超能力が無かったら今ごろおやっさんにこっ酷く説教食らってたよ」
「知り合いか？」
「まあね」
「さっきの私服刑事か？」
「ああ、俺の事いつも気にかけてくれて説教してくれるんだよ」
「結構良い人じゃねーか」
「まあね、今時珍しい人だよ」
鎖拿はパトカーの走り去った先を眺めながら言う
「じゃあ、そろそろ帰ろう」
「おう」
「ふー、良い湯だった」
「令も飲む？」
風呂から上がった令が居間に入ると鎖拿が晩酌をしていた
「ビールは苦手でな」
「じゃあ、どんなのなら飲む？」
「まあ、飲んでも果実酒とかだな」
「そうなんだ、なら………」
鎖拿はキッチンに入っていくと食材などが入っている冷蔵庫の隣の業務用の冷蔵庫を開ける
「何でこの家には冷蔵庫が２台あるんだ？」
「これ酒専用」
「………………」（汗）
令は業務用冷蔵庫を覗く、そこには色々な酒が入っていた
「はい、これでいい？」
鎖拿は令に杏酒のパックを渡す
「あ、ああ。それにしても何でもあるんだな」
「まあね。俺、酒好きだから」
そいういと鎖拿はまた居間でビールを飲み始める
居間のテーブルの上にはビールの空き缶が大量にある
「酒強いんだな」
「よくザルって言われる」
鎖拿は答える、大量に飲んでいるのにもかかわらず酔った様子はない
「そうか」
令は杏酒をグラスに注ぎながら鎖拿の飲みっぷりを見ながら言う
「今日は令が帰ってきた祝いだ、思いっきり飲むぞー」
それから２人は遅くまで飲んで騒いでいた
(2002年11月5日)
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